東京高等裁判所 平成12年(ネ)665号 判決
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一申立て
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは各自、控訴人大谷正に対し八八九万四四〇〇円、控訴人大谷絢子に対し一〇〇二万五三〇〇円及びこれらに対するそれぞれ平成一〇年九月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
4 仮執行の宣言
二 被控訴人ら
本件控訴をいずれも棄却する。
第二事案の概要
事案の概要は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決書四枚目表三行目の「について税金を繰り延べて」を「により繰り延べられていた税金を」に、同裏六行目の「四五〇〇」を「四二五〇」にそれぞれ改める。
二 控訴人らの当審における補足主張
控訴人正は買換え特例の適用を受けたことまでは伝えていないが、税務対策上買い換えた旨を間違いなく被控訴人杉田に話している。宅地建物取引主任者ないし宅地建物取引業者は不動産売買の専門家として租税特別措置法の知識その他の専門的な知識と経験を有しており、素人である顧客(宅地建物の取引をする者。以下「顧客」という。)との関係では優越的な地位にあるから、顧客から税金について質問があったときは課税条件その他の事実関係を十分調査して慎重に回答すべき義務があるのに、被控訴人杉田はこれを怠って控訴人らに損害を与えた。
第三証拠関係
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
第四当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第三 判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決書七枚目裏一行目の「甲三」を「甲二」に改め、同二行目の「杉田本人)」の次に「及び弁論の全趣旨」を加え、同六行目の「一五日」を「二五日」に、同九行目の「永峰」を「永峯」に、同八枚目裏六行目の「原告」を「控訴人正」に、同九枚目裏三行目の「三〇日」を「三一日」に、同一一行目の「について税金を繰り延べて」を「により繰り延べられていた税金を」に、同一〇枚目表六行目の「といえば「あのステンレスの建物ですね」」を「のことを「あのステンレスのビルですね」」に、同一一枚目表七行目の「原告」を「控訴人ら」にそれぞれ改める。
二 控訴人らの当審における補足主張について
控訴人らは、宅地建物取引主任者の被控訴人杉田は不動産売買の専門家として租税特別措置法を含む専門的な知識と経験を有しているから、顧客から税金について質問があったときは事実関係を十分調査して慎重に回答すべき義務があると主張する。
しかし、宅地建物取引業者は宅地建物について売買、交換等の代理、媒介等を業とするもので、その事務所等に配置される宅地建物取引主任者は、宅地建物取引業法が定める宅地建物取引主任者試験に合格した上所定の要件を備える者でなければならず、右媒介取引等に際し取引をする者に目的物の概要、法的規制の有無内容、契約代金の額、解除及び損害賠償に関する事項その他契約に関する重要事項を説明するものとされている(宅地建物取引業法二条二号、三号、一五条一項、一六条一項、一八条一項、二二条の二、三五条一項)。このように宅地建物取引業法は宅地建物取引主任者をして顧客に宅地建物の概要や法的規制等の取引に関する重要な事項を説明させることにより当該取引の内容を契約当事者に理解させ、もって宅地建物取引に関する紛争や顧客の不測の損害を未然に防止することを企図しているもので、宅地建物取引主任者に対し宅地建物取引による課税の有無を顧客に説明する義務までを課すものではない。このことは、顧客に対する課税は当該宅地建物取引後に発生する問題であること、課税の有無及び課税される場合の課税金額は顧客の個別事情により左右されること、税務に関する事項は税理士法に基づいて税理士が関与すべきものとされていることに照らして明らかである。宅地建物取引主任者試験において租税特別措置法が試験科目とされていることは宅地建物取引主任者に対し宅地建物取引の関連分野についての知識を備えることを求める趣旨にすぎず、右判断を何ら左右するものではない。
したがって、顧客から宅地建物取引に関し具体的な事実関係や前提条件等を明らかにした上課税の有無を尋ねられ、これに宅地建物取引主任者が断定的あるいは顧客にそのように誤信させるような応答をした場合に宅地建物取引主任者及びその使用者である宅地建物取引業者に責任が生じることがあり得ることは格別、控訴人らの主張によっても顧客から「相続税対策上買い換えた」という程度の概括的な説明を受けたにすぎない被控訴人杉田に、控訴人正の説明を端緒として課税に関わる諸事情を調査して控訴人らに助言指導等をすべき義務を認めることができないから、控訴人らの主張は失当である。
第五結論
よって、本件控訴は理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 宮岡章 裁判官 田川直之)